俺は学生時代、ある程金が貯まるとバックパックに荷物を詰めては旅に出ていた。
だいたい毎日夕方から11時頃までいくつか掛け持ちでバイトをしていた。
週日は家庭教師、工事現場や警備、週末は映画館や引っ越し屋でと、学生にしては比較的時給のいいものを選んでいた。
仲間や恋人と旅する事もあったが、たいていは気ままな一人旅を楽しんでいた。
ガイドブックも持たず、その日の予定も行き先もろくに決めない旅を楽しむには一人旅の方が都合がいいからだ。
大学4年の春早々に運良く就職先も決まり、卒業に必要な単位も足りていたこともあり、バイトで稼いでは長めの一人旅に数回出た。
これから先、こんなに自由な旅をできる可能性もない。そう思うと、焦る心を抑えるのは難しく、それまでに行ったところでもう一度行きたかった街、まだ訪れたことのない国などをリストアップしては目的地を模索した。
家族旅行はたいてい世界の秘境や遺跡を見て廻るという一風変わった両親に育てられたこともあり、子供の頃から世界には想像を絶する場所が存在することは認知していた。ただ、家族と行く旅は、親父の休暇にあわせた予定がきっちり組まれた、期間限定の短い旅行だった。その頃はバックパッカーというスタイルの旅が存在することも知らなかったのだが。
そもそも俺がバックパッカーというスタイルの旅に興味を持ち始めたのは高校時代に読んだ旅のエッセイに始まる。何故か身体の底から沸き上がる旅への憧憬とそれを真似したかったのだ。
ただ、そのエッセイ通りアジアから始めるのではなく、まず、その頃一番興味のあったアメリカに始まり、ヨーロッパを訪れ、それからやっとアジアを訪れた。
旅の中で、ヨーロッパの美しい町並みや歴史に酔いしれ、浅い歴史だからこそ力強く成長し続けるアメリカの強さを感じ、悠久の歴史の中変わらずに流れる時間に息づくアジアの逞しさを心ゆくまで堪能した。
だが、それまでの旅で出会った異質の時間が流れる2つの大陸があった。
南米、そして、アフリカーー。
侵略者によってもたらされた文化と独自の文化。
長くその地にとどまらないと見えない文化の融合の背景にある本当の歴史。そんな複雑に絡み合う文化に魅了されたのだ。
次に訪れる際には駆け足ではなく、ある程度長く留まりじっくり異文化交流を深めたいと思った地。
ようやくチャンスが巡ってきたと、はやる心のまま旅に出ることにした。
時間はたっぷりある。
まずは南米を目指すことにした。両大陸とも日本とは反対の季節だ。ただ、南米は雨期でも冬でも楽しめる気がしたのだ。
前半数ヶ月は自動車で南米を旅をした。
一旦、帰国しアフリカを目指した。
以前、エジプトから地中海沿いにリビアやチュニジアを経由しモロッコへ、そして西海岸沿いに南にコートジボワールに辿り着き、そこからカメルーンに向け東を目指した旅は経験していた。
いつかこれらの旅について述べることにしよう。
いつか...。
アフリカの旅の最初の目的地はエチオピアと決めていた。
エチオピアの部族との交流を書いた本を読んだことがあった。
今でこそ世界遺産の影響で欧米では人気の目的地の一つとなっているが、当時はあまり観光客もいなかった。
この地に根付く正教文化、それに基づく独自の暦や生活。すべてが普段の生活とはかけ離れた異国のそれに何か自分に欠けた物を見つけられるような気がしてならなかった。
まずはエチオピアに上陸し、それから徐々に南を目指す長期の旅に向け僅かな情報を集め旅準備をした。
旅立ちの日は、目的の地が乾期に入った年の瀬の寒い朝だった。
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だいたい毎日夕方から11時頃までいくつか掛け持ちでバイトをしていた。
週日は家庭教師、工事現場や警備、週末は映画館や引っ越し屋でと、学生にしては比較的時給のいいものを選んでいた。
仲間や恋人と旅する事もあったが、たいていは気ままな一人旅を楽しんでいた。
ガイドブックも持たず、その日の予定も行き先もろくに決めない旅を楽しむには一人旅の方が都合がいいからだ。
大学4年の春早々に運良く就職先も決まり、卒業に必要な単位も足りていたこともあり、バイトで稼いでは長めの一人旅に数回出た。
これから先、こんなに自由な旅をできる可能性もない。そう思うと、焦る心を抑えるのは難しく、それまでに行ったところでもう一度行きたかった街、まだ訪れたことのない国などをリストアップしては目的地を模索した。
家族旅行はたいてい世界の秘境や遺跡を見て廻るという一風変わった両親に育てられたこともあり、子供の頃から世界には想像を絶する場所が存在することは認知していた。ただ、家族と行く旅は、親父の休暇にあわせた予定がきっちり組まれた、期間限定の短い旅行だった。その頃はバックパッカーというスタイルの旅が存在することも知らなかったのだが。
そもそも俺がバックパッカーというスタイルの旅に興味を持ち始めたのは高校時代に読んだ旅のエッセイに始まる。何故か身体の底から沸き上がる旅への憧憬とそれを真似したかったのだ。
ただ、そのエッセイ通りアジアから始めるのではなく、まず、その頃一番興味のあったアメリカに始まり、ヨーロッパを訪れ、それからやっとアジアを訪れた。
旅の中で、ヨーロッパの美しい町並みや歴史に酔いしれ、浅い歴史だからこそ力強く成長し続けるアメリカの強さを感じ、悠久の歴史の中変わらずに流れる時間に息づくアジアの逞しさを心ゆくまで堪能した。
だが、それまでの旅で出会った異質の時間が流れる2つの大陸があった。
南米、そして、アフリカーー。
侵略者によってもたらされた文化と独自の文化。
長くその地にとどまらないと見えない文化の融合の背景にある本当の歴史。そんな複雑に絡み合う文化に魅了されたのだ。
次に訪れる際には駆け足ではなく、ある程度長く留まりじっくり異文化交流を深めたいと思った地。
ようやくチャンスが巡ってきたと、はやる心のまま旅に出ることにした。
時間はたっぷりある。
まずは南米を目指すことにした。両大陸とも日本とは反対の季節だ。ただ、南米は雨期でも冬でも楽しめる気がしたのだ。
前半数ヶ月は自動車で南米を旅をした。
一旦、帰国しアフリカを目指した。
以前、エジプトから地中海沿いにリビアやチュニジアを経由しモロッコへ、そして西海岸沿いに南にコートジボワールに辿り着き、そこからカメルーンに向け東を目指した旅は経験していた。
いつかこれらの旅について述べることにしよう。
いつか...。
アフリカの旅の最初の目的地はエチオピアと決めていた。
エチオピアの部族との交流を書いた本を読んだことがあった。
今でこそ世界遺産の影響で欧米では人気の目的地の一つとなっているが、当時はあまり観光客もいなかった。
この地に根付く正教文化、それに基づく独自の暦や生活。すべてが普段の生活とはかけ離れた異国のそれに何か自分に欠けた物を見つけられるような気がしてならなかった。
まずはエチオピアに上陸し、それから徐々に南を目指す長期の旅に向け僅かな情報を集め旅準備をした。
旅立ちの日は、目的の地が乾期に入った年の瀬の寒い朝だった。
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