ドラッケンミラー氏、AIに銘柄を聞いてアルゼンチンに投資する

ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを長年運用していたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏が、CNBCのインタビューでAIに相談してアルゼンチンに投資した時のことについて語っている。

ミレイ大統領を支持するドラッケンミラー氏

以前の記事でドラッケンミラー氏は、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領を自分の推しとして紹介していた。

ミレイ氏は政治家による野放図な財政支出がハイパーインフレと通貨暴落を引き起こしたアルゼンチンにおいて、政治家による無駄遣いを消し去るために大統領に当選したオーストリア学派の経済学者である。

政府が年金を通して若者から老人に資金移転していることを批判していたドラッケンミラー氏と気が合うのも当然だろう。

ドラッケンミラー氏がアルゼンチンに投資した方法

ドラッケンミラー氏は政治的にはアルゼンチンを気に入っている。では投資対象としてはどうだろうか。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

ミレイ氏のダボスでの講演を見た。わたしは自分の職場にいて午後1時頃だったが、perplexity(訳注:ドラッケンミラー氏一押しのAI)に向かってもっとも流動性が高いアルゼンチンのADR(訳注:米国市場で取引できる海外株)を5つ教えてくれと言った。

世界最高のヘッジファンドマネージャーであるドラッケンミラー氏がAIに銘柄を聞いているところが面白い。ちなみにperplexityもドラッケンミラー氏の推し銘柄らしいが、残念ながら非上場である。

だが実際、AIは情報収集の補助にするには素晴らしいツールである。筆者はかねてよりAIの最高の機能は検索エンジンとしての情報収集能力だと言っている。人のような顔をして喋れることではない。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

perplexityは十分な情報をくれた。ソロス氏の昔からの投資ルールである「投資してからリサーチしろ」に従ってそれらすべてに投資した。

ミレイ大統領の緊縮財政

「投資してからリサーチしろ」についてはドラッケンミラー氏は以下の記事で詳しく語っている。

だがアルゼンチンについてはどうだろうか。ミレイ氏はハイパーインフレを抑えるために政府の財政支出を大幅に削った。

その結果、財政赤字は財政黒字になった。だが財政支出はそのままGDPの構成要素であるため、財政支出を削るということはその分GDPを減らすということになる。

結果、アルゼンチンは景気後退に陥った。

だが株価に関しては上手く行っている。ミレイ氏が就任したのは去年12月だが、アメリカに上場するアルゼンチンETFは次のように推移している。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

アルゼンチンについてリサーチするにつれてわたしはアルゼンチン株のポジションを増やした。今のところ上手く行っているが、今後どうなるだろうか。

大衆がミレイ氏にどれだけの時間を与え続けるかは分からない。だが今のところ彼の人気は維持されている。

ドラッケンミラー氏の最近の投資は、NVIDIAなども含めて絶好調である。

アルゼンチン人が痛みを受け入れた理由

さて、アルゼンチンの株価は上がっており、興味深いことだが企業利益の減少を嫌うはずの株式市場がミレイ氏の政策を支持している。

政治家が税金を使った公共事業で誰も使わないものを積み上げ続けるより、税金のない世界の方が株価にとっても良いとアルゼンチンの株式市場は判断しているということになる。

だがそれでも一時的には深刻な景気後退を受け入れることになる。そうでなければ、緩和に慣れきった経済がインフレと通貨安を終わらせることは出来ないのである。

それは先進国のどの国民にも出来ないことだ。いまだに日本政府は国民が年間数百万払っている税金を数万ポケットに戻すことで国民を喜ばせる政策をやっている。そういうことが出来るのは、日本人が自民党ロスに耐えられないからである。

アメリカでも、バイデン氏とトランプ氏が唯一合意しているのは、年金問題にはノータッチだということだ。だが今の老人への給付を減らさなければ、その分若者の負担が増加する。

だがアルゼンチン人はそうした虚飾の政治と決別する痛みを受け入れた。何故アルゼンチンにはそれが出来たのか? ドラッケンミラー氏は次のように答えている。

アルゼンチンはあまりに長い間あまりに酷い経済状況に置かれてきた。

アルゼンチンはかつて世界8位の経済大国だった。今では、覚えていないが150位くらいだ。

だからアルゼンチンには痛みを伴う政策を受け入れる覚悟があった。

自国通貨は暴落し、物価は1年で倍以上になるインフレ状態に陥って初めて、アルゼンチン人はようやく決断を下した。

結論

だが人間はそこまで行かなければ決断できないのかもしれない。ドラッケンミラー氏は次のように続けている。

そしてそれはアメリカで起こっていることの真逆だ。アメリカはどんな痛みでも受け入れるつもりがない。

少しでも経済減速の兆候があれば緩和をやりたがるアメリカの今の状況について言及しているのである。

実際、過去10年のアメリカの経済成長はリーマンショック後に民間の負債を政府の負債に転嫁してきたことによるものである。

そういう政策を行なってもドルが下落しなかったため、アメリカはまだ経済成長を続けられている。

だからアメリカ経済の強みはドルが基軸通貨であることにある。実際、ミレイ氏の公約の1つはアルゼンチンが自国の通貨を放棄しアメリカのドルを採用することである。

そうすればアルゼンチンの政治家が自分のために紙幣印刷をすることを妨げられる。

ドラッケンミラー氏は次のように言う。

だがこのまま民間の負債を政府が肩代わりすることを続けていけばどうなるか? アメリカが誰もが投資したがる国だというのは確かにそうだが、アルゼンチンがアメリカに資金供給しているのを見ると何とも言えない気持ちになる。だがそれが今起こっていることだ。

何故ならば、ドル採用のためにドルを買うということは、アルゼンチンが米国債の買い手になるということでもあるからである。

アメリカはアメリカで問題を抱えている。アルゼンチンはアメリカになれなかったが、アメリカもアルゼンチンになれないのである。

ポール・チューダー・ジョーンズ氏によれば、このままアメリカが国債の大量発行を続ければ、年内に国債市場で危機が起きるという。

アメリカはアルゼンチンになれていないが、一方でインフレ後の金利上昇によって国債市場は着実に危機に近づいている。

人はアルゼンチンの窮地まで行かなければ緩和に頼る政策を止められないのか。政府から降ってくる紙幣ではなく自力によって生きるつもりはないのだろうか。アメリカと日本の選択を楽しみに待ちたい。