とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。

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【2010年代ベスト】
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位
2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位

それでは、一緒に音楽の旅へ!
東京足立少年少女合唱団 創立55周年記念 第55回定期演奏会(令和6年5月12日(日曜日))@西新井文化ホール


●心、洗われる(心、現われる)


知人に誘われて合唱イベントを聴きに行ったので、感想を書く。

先立って書いておきたいのは、僕は合唱について何か書くのは、ずぶの素人だということである。(毛さえ1本も生えていない。なんならいつものロック評論も毛が3本生えた程度だ。)だから、僕の理解不足により、人を傷つける解釈や受け取り方をしてしまう可能性もある。そのときは、コメント欄で忌憚なきご意見をお聞かせください。


今日観に行った演奏会、素晴らしかった! クラシックや合唱を始めとした音楽は、やはり現場で聴くのは違う。CD/YouTube/サブスク音源よりも、やはり生で聴いた方がダイナミクス(≒強弱)を感じられる。(ちなみに、ロックミュージックでいうと、ライブハウスで身体にずしんと響く重低音が好きだ。)

場内アナウンスの声も洗練されていた(下記5部でナレーターもされていたと思う)。ウグイス嬢のように、清らかに磨き上げた綺麗な一本線の美声だった。

全5部構成。1部と2部は少年少女合唱団が演奏。1部からして息がそろっていて素晴らしい(その後もずっと)。2部のジブリ名曲選を聴き、やはりジブリの曲は懐かしさが琴線を揺らすと思った。日本人(ジブリファンの外国人も?)のDNAに刻まれた名曲たちだ。


3部は大人たちも加わり、この合唱団の立ち上げにも関わった薬師神武夫さんの作品を歌う。詩の良さと、その詩から音楽を作り上げる薬師神さんのイマジネーションの力に感服した。(個人的に作曲者のどなたかに中原中也の詩の作曲をしてほしい…。僕の青春なので。)

4部はふたたび少年少女合唱団が舞台に出てきて、「思い出の歌」と題して懐メロを歌う。「イエスタデイ・ワンス・モア」、良かったなぁ! 日本語の訳詞で歌っていたけど、心に沁みる言葉と歌でした。「見上げてごらん夜の星を」にもしみじみした。名曲は世界の文化遺産。こうやって歌い継がれるべきだと思う。

5部は『女声合唱のための組曲「旅」』。指揮者は前述した薬師神武夫さん。他の団員から車椅子で運ばれて登場。柔らかく小さな手の動きだが、合唱する団員たちへの統率力が並外れていた。指揮者も表現者。あえかだけど美しい表現に円熟した凄みを感じた。

全5部を通して、どの曲の演奏も「表現」になっていると感じた。ただ、器械的に縦の線と横の線で音楽を作るのではなく、斜めにも円にも立方体にも心の絵筆で訴えかけるように音楽が響いていた。

音楽と心の距離が近い。これは、世界をまるごと信頼している子どもたちと、汚れた世界を知っても美しいものへの理想を失わない大人たちの作る音楽だ。演者も観客も心が洗われるし、合唱団の心が現われた「表現」としての演奏からは、個人的にもっと柔らかく凛として生きようという前向きなメッセージをいただいた。

ソプラノを颯爽と追いかけるアルト、アルトにコーラスで重なって音楽の翼を広げるソプラノ。合唱団のそれぞれが大きく身体を揺らしたり、小さくリズムを刻んだり、緩やかな個人差が歌の生地に練り込まれている。どの時の歌も絵になる。大満足の演奏会でした。

今年は無料で予約なしでも観られました。来年以降も素晴らしい演奏をされると思いますので、この記事を読んで気になった方はぜひ彼ら/彼女らの演奏を聴きに訪れてみてください。

🐼オマケ🐼

合唱がテーマのマンガといえば、Xのフォロワーの方に教えていただいて、積ん読中の「はしっこアンサンブル」(by 木尾士目)。『進撃の巨人』の二周目が読み終わったので、読み始めました! こういうピュアな少年が主人公のマンガ、良きですね〜。自分も合唱サークルで練習しているので、今後の展開が楽しみ!

🐼オマケその2🐼
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●逆襲のリバティーンズ

4人組UKロックバンド"ザ・リバティーンズ "(The Libertines)の4枚目のアルバム『All Quiet On The Eastern Esplanade』をレビューします。

【収録曲】
1 Run Run Run
2 Mustang
3 I Have a Friend
4 Merry Old England
5 Man with the Melody
6 Oh SHT
7 Night of the Hunter
8 Baron's Claw
9 Shiver
10 Be Young
11 Songs They Never Play on the Radio

アルバムタイトルは、ベストセラーを映画化し、1930年に公開された(最近もリメイクされた)『西部戦線異状なし(ALL QUIET ON THE WESTERN FRONT)』をもじったと思われる。「Esplanade」は遊歩道という意味であり、オフィシャルな邦題は『東部遊歩道異常なし』だ。参照元の『西部戦線異状なし』とあわせて考えると、人をくったようなタイトルにすでに彼らの個性がある。

まずは、リバティーンズの総論を。リバティーンズで僕が最推しするのが、彼らのデビューアルバム『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』だ。


「Death on the Stairs」

とにもかくにも、この 『Up The Bracket』の「Death on the Stairs」を聴いてほしい。二人のギターボーカル、ピート・ドハーティとカール・バラーの親密と反発が一体となったような関係性と、競い合うような場の掌握力が本当にスリリング! ロシアの女性二人組のユニット「タトゥー」の二人のような親密ぶりがリバティーンズの音の魅力に表れていて、自分はゲイではないけどすごく萌える(燃える)。

疾走感に風を感じられる。4人のメンバーの中で一番テクニシャンだと思われるゲイリー・パウエルの鉄壁のドラムの上に乗る、酩酊者のような下手ウマヘロヘロギター。悪ぶった脈打つグルーヴに良いことも悪いことも忘れられる。この音楽は衝動をとらえている。

2000年代初頭に起こった「ガレージロック・リバイバル」の現象。この現象でリバティーンズと並び立って紹介されるストロークスやアークティックモンキーズ、フランツ・フェルディナンド。これら3バンドの音には精妙な洗練ぶりを感じるし、ストロークスのモダンな音はガレージロックという言葉の印象とは離れた上質さがあるように感じる。

だが、リバティーンズの音はエレガンスよりもバンド演奏をそのまま真空パックしたような空気感を重視したように聴こえる。だから、彼らの音源は一枚目のアルバムの『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』が一番良い。無軌道な青春と乱暴な初期衝動が余すところなく真空パックされているのだ。二枚目と三枚目も悪くはないのだが、一枚目の衝撃からはほど遠い。

さて、本作をみていこう。

本作は収録曲#7「Night Of The Hunter」に顕著なようにイマドキのバンド(The 1975)のようなエレガンスも感じる。クラシック(たとえばラヴェル「ボレロ」やドヴォルザーク「新世界より」)のようなフレーバーさえ感じる。アルバム全体がパブロックからAORになったような感触なのだ。まあ、AORと呼ぶには少し荒っぽいサウンドだけど。

複数の曲にストリングス、ホーンセクション、コーラスが取り入れられ、直線的な熱よりも、多様性の豊かさが音に表れている。パンクバンドがポストパンクやニューウェーブに音楽性を変えていったように、これがリバティーンズの彼らの成熟なのだろう。ギターボーカルの二人の密室的な親密さがもっと音楽的に開かれて(拓かれて)いったのだと思う。

#6「Oh Shit」が本作において、一番間口が広いだろうか。ポピュラリティーと作家性が同居する必殺ロックンロールだ。そんな曲にこのタイトルをつけるひねくれ方がいいね。



#9「Shiver」はジョン・ハッサールによるベース演奏が魅力的な一曲だ。リバティーンズでベース演奏を意識することは少なかったのだけど、この曲のベースは温かなアタック音かつメロディアスで素晴らしい。そして、僕が本作で最も好きでオススメするのもこの曲である。



本アルバム全曲をとおして、ソングライティングや楽器フレーズの傾向が、ベタだけど安手にならない才覚の鋭さが素晴らしい。変化球の曲で予定調和を崩したり、オーセンティックなロックンロールを演奏したり。どちらにおいても、彼らの筆致が強く刻まれている。

今のところ、僕が一番に好きなのは前述した一枚目のアルバム(『リバティーンズ宣言 (Up The Bracket)』)なのだが、その一枚目をゆうに超える本作の完成度は今までの彼らのキャリアの中で随一だと思う。好感の具合と完成度の高さは違うものさしなんだよね。とにもかくにも、本作は佳作でした。

Score 8.8/10.0

🐼オマケ🐼
和製リバティーンズといったら、以下の2組❣️
リアルなリリカル🌸×衝動のロックンロール⚡️


andymori「everything is my guiter」


ダニーバグ「退屈ハイウェイ」


👆andymoriは解散しましたが、こちらはバリバリ現役若手です!



●俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい

元うみのて(とかげ日記読者にはおなじみ)、現在はゲスバンドとSuiseiNoboAzのギタリスト高野京介の6曲入りデビューアルバムのレビュー。

このアルバムは、音源が配信されておらず、CDの形態のみの発売だが、そのCDもSold Outとなっている。(なぜか岡山市の「ながいひる」という古書店で店舗販売用在庫が2枚だけあるようだが)。タイトル曲の「ロックマン」は配信とYouTubeで聴けるので、聴いてみて気になった方はCDの在庫復活かサブスク配信を待っていてほしい。


👆アルバム『ロックマン』試聴トレーラー

小沢健二の歌に以下の歌詞のポエトリーリーディングがあるが、高野さんもまさに詩人!(シェルターとはライブハウス「下北沢シェルター」のことだろう。ミュージシャンも詩人なのだ。)

下北沢珉亭 ご飯が炊かれ 麺が茹でられる永遠
シェルター 出番を待つ若い詩人たちが
リハーサル終えて出てくる

小沢健二「アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)」


うみのて笹口騒音さんの天衣無縫で、かつ洗練された手つきの歌詞ではなく、高野さんの書く歌詞はもっと凸凹した歌詞だ。だが、逆にそれが生々しいリアリティを帯びている。編集はしているだろうがフラット気味に聴こえる歌唱とあわせ、ごろっとした生野菜を食べている気分だ。生々しいからこそ高野さんのフィーリングが痛いほどに伝わってくる。

では、一曲ずつ見ていこう。

一曲目「motion」でフェイドインしてくる始めからX JAPAN並みに壮麗なサウンド。後半は女性のポエトリーリーディングがそこに乗るが、リリカルな聴き心地に安堵する。これから何が始まるのだろうと期待させる理想的な導入部の一曲目だ。(音源の一曲目で女声のポエトリーリーディングが披露されるのは、夜に駆ける【バンド名】の「白昼夢」を個人的に思い起こさせた。)

#2「バンドをやめる日」。このギターの気だるい響きと感傷は、きのこ帝国のアルバム『渦になる』を僕に想起させた。一曲目がおそらく高野さんと関わり深いライブハウス「新宿motion」がタイトルの由来であり、最後の曲「朝が嫌」も多くのバンドマンの生息地「阿佐ヶ谷」が元ネタだと思われるので、この曲「バンドをやめる日」も(というかこのアルバムのどの曲も)、高野さんの私小説的な要素がある。「いつまで無職でいるの」「どうして東京来たの」という歌詞がリアル。そして、歌詞がない箇所でギターに熱く語らせるのも私小説的だ。

#3「1997」。イントロから艶やかで凛とした鍵盤の音に耳を奪われる。ピアノが演出するこのロマンティシズムはゲーム音楽由来か。筆者の僕もそうだが、1997年は高野さんの青春時代(厨二病時代)だろう。「X GLAY LUNA SEA 黒夢 ラルク」という、バンド名の固有名詞が羅列される歌詞が高野さんの青春時代、またの名のヴィジュアル系全盛時代へリスナーを連れ込んでいく。

#4「I Love You」。かつて、この曲名で「僕は君を振る」という歌詞の曲が存在しただろうか? この屈託こそ、高野さんの神髄。

LUNKHEADの名曲「月と手のひら」の歌詞で「いつか君のその手は/違う誰かを幸せにする」というラインがあるが、相手の幸せを願って別れるという行為の尊さに泣けてくる。

リード曲の#5「ロックマン」。歌詞に登場する「ときメモ」、「ドラクエ」、「ファイナルファンタジー」、そして曲名の「ロックマン」。ゲーム好きの自己ゆえのロックソング(存在証明)を鳴らす。痛切なシャウトに胸を焦がす名曲。

音楽リスナー歴も浅くない身(耳)として、心に伝えようとする音楽はすぐに分かる。この音楽は心に伝えようとしている。たとえ、このコード進行がくるりのパクリでも。自分の伝えたいフィーリングは、自作他作問わず自分がお気に入りのコード進行の時に乗りやすい。



ラストの曲#6「朝が嫌」 。歌謡曲的な臭みがあるが、ノスタルジックな歌メロや間奏の女声コーラスはジブリの往年の名曲のような求心力があって心地よい。歌詞カードから飛び越えてくるような絶唱は僕の心の壁を何層も突き破ってきた。ギター演奏についても悪目立ちに技巧を見せつけようとせず、ストレートに気持ちを伝えようとする演奏がかっこいい。

本作でギタリストとしてサポートしている「壊れかけのテープレコーダーズ」の小森清貴さんにはMCや演奏のたたずまいからまっすぐな誠実さを感じる。高野京介さんも誠実だと思うが、小森さんとは違う誠実さだ。もっと俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい、そんなカオスな誠実さの魅力が高野さんの音楽と姿勢にはある。

うみのての「SAYONARA BABY BLUE」のMVにおいて、主人公の女性が入水自殺を遂げる描写(多分そう)があるが、それとは対照的に、フライヤーで同じく海辺に立つ高野さんはこれからも「生きる」ことを辞めないだろう。不潔な魂だって生きていてよいのだ。その生き方は最高にロックであり、その生き方を貫く高野さんは最高の「ロックマン」なのだ。

いつか出るだろう二作目が楽しみだ。



Score 9.4/10.0
↑現時点において2024年最高スコア。

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