北神急行電鉄の教訓 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

ごく最近まで神戸市北区に存在した「北神急行電鉄」という鉄道会社をご存知でしょうか。第三セクターと誤解されがちですが、阪急電鉄とその子会社の神戸電鉄が中心になって設立した純然たる民間企業です。

1988年に北神線7.5kmを開業させ、神戸電鉄有馬線に接続する谷上駅と、山陽新幹線に接続し神戸市営地下鉄西神・山手線と相互直通する新神戸駅間の所要時間を劇的に短縮しました。しかし、ほとんどが山岳トンネルで建設費がかさんだため運賃が高額になり、利用は伸び悩みました。

神戸市の中心部である三宮駅までは地下鉄に乗り入れて1駅ですが、運賃が合算されるため、さらなる割高感が生じました。その後、兵庫県と神戸市から補助金を得て値下げしたものの、決定打には至りませんでした。

経営面も苦しく、2002年には20年間の所有期限で北神線の施設を第三セクターの神戸高速鉄道に譲渡しました。期限後は親会社の阪急が施設を引き継ぐことになり、これをどのように立て直すのかが注目されました。

ところが、ここで思いがけないことが起こります。譲渡期限より前の2020年3月4日、神戸市による北神線の市営化が国に認可されたのです。これを受けて、6月1日から北神線は神戸市営地下鉄の一部となり、運賃の大幅な引き下げが実現しました。

この話には伏線があります。阪急は以前から三宮駅を介した西神・山手線との相互直通を提案してきましたが、総事業費が1,900億円と試算されたため神戸市は難色を示し続けました。それが、北神線市営化の認可と前後して白紙撤回されたのです。

この提案は阪急が一方的に示して、自ら引っ込めたに過ぎないのですが、神戸市側に負い目を感じさせるには十分な効果がありました。また、神戸市内部でも北区の開発の遅れを懸念する声があり、北神線を市営化すべきという意見があったようです。

そこにつけ込むかのように、市営化の交換条件のごとく撤回された相互直通案。北神線の買収金額は198億円でしたが、相互直通の負担に比べれば安い、と思わせるのは容易だったはずです。

阪急は巧みに、不良債権化した北神線を神戸市へ押し付けることに成功したのです。会社としての北神急行電鉄も解散し、後腐れはなくなりました。その政治力は見事と言うほかありません。公的資金を投じてローカル線の立て直しを図るのは珍しくありませんが、民活推進が声高に叫ばれる大都市でそれが行われるのは異例です。

その阪急もさすがにコロナ禍では業績が悪化しましたが、現在は持ち直しており、鉄道事業は押し並べて堅調です。理由の1つは、近鉄のようにことごとく合併するのではなく、採算性の劣る路線を子会社として分離しているためです。その業績が悪化すれば、北神急行電鉄のように切り捨てることも厭わないのが阪急という企業です。

この阪急に、累積赤字で頭がいっぱいの京都市交通局が対抗できるでしょうか。最悪の場合、気が付けば烏丸線を奪われ、お荷物の東西線だけが手元に残った、という事態にもなりかねません。そこまでいかなくても、線路使用料を阪急に有利なように値切られるぐらいのことは覚悟しなければならないでしょう。

 

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