玲奈ちゃんのドラマ出演が決まったことは喜ばしいことだった。
けどちょうどその時くらいからかな。
玲奈ちゃんはあたしからのキスをさりげなく拒むようになった。
ホテルで、一人部屋の玲奈ちゃんの部屋に転がり込んで、せっかく二人きりになれた時だって。
「玲奈ちゃん、」
「…、」
ぐいっと玲奈ちゃんの腰を抱き寄せて、瞳を見つめる。
いつもならこういう雰囲気になると、玲奈ちゃんからもあたしの首に腕を回されて、自然とキスする流れになるのに。
「あー…、えっと、お風呂入ってくるね。」
って、明らかに目が泳ぎまくりの玲奈ちゃんにはぐらかされる。
なんでそうなのなんて、勇気がなくて聞けなくて。
結局玲奈ちゃんの慌ただしい背中を見つめながら、ソファに沈み込むしかできない。
もう、嫌になっちゃったのかな。
あたしと付き合うの。
でも玲奈ちゃんは優しいからそれを隠して、傷つけまいとやんわり断ってるのかな。
近くにあったクッションをぎゅっと抱きしめ、下唇をキュッと結んだ。
玲奈ちゃんのドラマの撮影が本格的に始まると、ただでさえ少ない会える日数がもっともっと減って。
頻繁に連絡を取り合うような感じではないあたし達の近況は、もはやぐぐたすやブログでしか仕入れられない状況になっていた。
「きょうの夜!玲奈さんのドラマ初日!あんなことやこんなこと…楽しみ♡」
ワクワクが文面から伝わってくるような、ぐぐたすの投稿。
送り主はあいりんだ。
あんなことやこんなことがどんな類いのものなのかも見当のつかない自分にため息が漏れる。
なんで、付き合ってるあたしなんかより、仲のいいあいりんの方が玲奈ちゃんのことを知ってるんだよ。
玲奈ちゃんがあたしに話してくれないことを、他の人に平気で喋ってしまうんだろうな。
あたしは1人、ホテルの部屋のベッドで寝そべりながら、テレビをつけた。
カチカチと響く時計の無機質な音が気になって、ふとそちらに目を向ける。
もう、こんな時間か。
玲奈ちゃんのドラマが始まるのは21時。
てことは、もう15分もしない内に始まる。
チャンネルは確か…。
自然と指がリモコンのボタンを押していた。
ピリリリ…。
テレビで流れるCMをぼんやりと眺めていると、ポケットで携帯が鳴り始める。
あたしはテレビ画面から目を離すことなく、携帯の着信をとった。
「はい、もしもし。」
「…珠理奈?」
「っ!」
着信相手を確認してからとるべきだった。
全く心の準備が出来ていない段階で、その声を聞いてしまったからか、心臓がうるさい。
「な、なに?」
平静を装うけど、ドモリがち。
「あのさ、今どこにいる?」
「え?」
「もし、家とかにいるんだったら、その、」
「…その?」
「ドラマ、わたしのドラマ…、見ないで欲しいの…」
「え?」
ゆっくり瞬きして、テレビ画面を見ると、ちょうど玲奈ちゃんのドラマが始まったところだった。
あたしはリモコンで音量を下げながら、電話越しの玲奈ちゃんに笑った。
「なんでー?」
「い、いやその…、恥ずかしいじゃん?私の下手くそな演技、見て欲しくない、し…。」
必死に取り繕う様子は、バレバレだ。
「あははっ、いま出先だからさ、みれてない。ラッキーだったね、家にいたら絶対みてたのに。」
「あ、ほんと?」
ホッとした玲奈ちゃんの声。
あたしはテレビに映る、女優の顔をした玲奈ちゃんの顔をまじまじと見ていた。
いつの間に玲奈ちゃんは、こんな顔をするようになったんだろう。
あたしは胸に渦巻くモヤモヤを持て余し、少しだけ寂しくなる。
「録画もみなくていいから…その、ね。」
「なにをそんなに…って…、」
明らかに様子のおかしい電話越しの玲奈ちゃん。
なんなんだよと思いながら視線をテレビ画面に移して、あたしは固まってしまった。
そこにいたのは、見知らぬ男の人とキスをする玲奈ちゃん。
しかも軽いやつなんかじゃない、結構なやつだ。
「……玲奈ちゃん、なにしてんの」
「えっ…?」
あたしの口からは、ごく自然に声がこぼれていた。
なんでそんな色っぽい顔でキスしてんだよ。
そんなそそる…じゃなくて、いけない顔、あたし以外に見せていいと思ってんの?
「珠理奈もしかして、」
「…みてるよ。ばっちり。」
「…!」
「そういうことでしょ?」
「え?なにが?なにがそういう…」
必死に聞き返す玲奈ちゃんの言葉の途中で、あたしは携帯を切った。
最近様子がおかしいと思ったんだ。
もともと玲奈ちゃんはあたしと付き合うまで、恋愛経験の一つもしてなかったから。
あたしとのそれは、初めてだからこそ価値があっただけであって。
なかなか男前の俳優と、演技だとしてもそういう仲になったことで、玲奈ちゃんの気持ちは変わってしまったんだ。
こんな、5歳も年下のワガママな女の子より、もっとイケメンで、もっと頼り甲斐のある男の方がいいって、そう思ったんだよね…?
あたしは静かにテレビの電源を消して、近くにあった枕をテレビめがけて投げつけた。
枕はテレビにぶつかる前に床に落下して、あたしの無駄な抵抗は儚く散ったってわけ。
「あーあ…。」
ベッドのシーツに顔を押し付け、じんわりと滲む涙をそこに染み込ませた。
こんなことなら、もっとめちゃくちゃにしとけば良かった。
あたしのことなんて忘れられないくらい、めちゃくちゃに抱いてやればよかった。
こんなあっけなく心変わりされるくらいなら。
ギュッと拳を握り締めて、胸に迫る切なさを噛み殺していた、そんな時だった。
コンコン、と、控えめに部屋のドアが叩かれた。
まさか、玲奈ちゃん?
そんなドラマ的発想をする自分に苦笑いし、力なくドアに向かった。
扉を開けると、そこにいたのはまさか本当に玲奈ちゃんで。
ドラマ出演が決まったから、行動までドラマ的にすることないのに、とか意味わからないことを思いながら、あたしは立ち尽くしていた。
「珠理奈、入ります。」
「え、ちょ、」
有無を言わさず部屋に入ってきた玲奈ちゃん。
あたしが扉を閉めたと同時に、後ろから抱きしめられてさらにびっくりする。
てっきりあたしの背中で、部屋の方へ歩いて行ってしまったと思ってたから。
「じゅりな…」
絞り出すようなその声は、間違いなく、あたしの大好きな玲奈ちゃんの声で。
こんな時でさえ、あぁやっぱり大好きだって、想いが溢れてしまいそうになる。
「珠理奈、怒った…?」
「え?」
「その、キス…。」
「ああ…、」
あの映像を思い出すだけで、頭がカッとなる。
けど、ここで泣き喚いたらまた玲奈ちゃんをうんざりさせて、更に嫌われちゃうかもしれないと思ったあたしは、努めて大人っぽく振舞った。
「大丈夫、あんなん全然。だって演技でしょ?だけど、そうならそうと言ってくれればよかったのに。びっくりしたよ。」
「ごめんね、うん、私も本当は言おうと思ったんだけど…。」
そりゃあ、言えないよね?
それで、心までゴッソリ持って行かれちゃったんだから。
「珠理奈がさっき言ってた、そういうことでしょって、どういうこと?」
「え?」
「電話で言ってたじゃん。私、それが気になって仕方なくて、わざわざマネージャーさんに無理言ってここまで来たんだよ?」
「なん…で、」
珍しく必死な玲奈ちゃんに目を瞬かせていると、大事な次のセリフまで危うく聞き逃してしまいそうだった。
「珠理奈に愛想尽かされちゃったと思って、不安だったから…。」
え??
某然として立ち尽くす。
玲奈ちゃんいま、なんて言った??
「珠理奈、他の人とキスしちゃってごめん。だけど、珠理奈が一番だから…。珠理奈が好きなの。」
そう言って、そっとあたしの背中に腕を回す玲奈ちゃん。
相変わらず細い身体なのに、その温かい包容力にキュンとする。
「愛想を尽かされたのは、あたしの方だと思ってた。」
「え?」
「だって玲奈ちゃん、最近全然キスしてくれなかったから…。」
あたしの顔を伺い見る玲奈ちゃんは、「あぁ、それは…」と、言いづらそうに目を泳がす。
けれど、意を決したのか、次の瞬間にはしっかりとあたしの目を捉えた。
「だって珠理奈とキスしたら、その俳優さんと珠理奈、間接キスになっちゃうでしょ?」
「え?」
「そんなの…嫌じゃん。」
拗ねたような顔をする玲奈ちゃん。
口をへの字に結んで、顔を真っ赤にしているのがこれまた可愛くて仕方ない。
「きゃ…っ」
「玲奈ちゃん…!」
もういても立ってもいられず、あたしは玲奈ちゃんの身体を強く強く抱きしめた。
華奢な身体が、折れてしまうんじゃないかと思うくらい強く、その抱擁に愛を込めた。
「どんだけ馬鹿なの、玲奈ちゃん…。全部さ、言ってくれなきゃわかんないよ…。」
ドラマでキスシーンがあることも、キスシーンを見て欲しくないことも、そのせいでキスしたくないこととかも、全部理由を言ってくれなきゃわかんないよ。
勝手にその理由付けをして、勝手に落ち込んでる自分が馬鹿みたいじゃん。
「ごめんね、珠理奈。」
キュッと服の裾を握ってくる玲奈ちゃんは、5つも年上のくせにすっごい可愛くて。
「ん、もう大丈夫。玲奈ちゃんが本当のこと言ってくれたから。」
あたしは玲奈ちゃんの頭を撫でながら、見えないところでニッコリと笑った。
「でも…、ちょっと悔しいな。」
「ん?」
あたしの胸の中でボソボソと何か言う玲奈ちゃん。
「だって、あのキスシーンみて珠理奈全然大丈夫って。ちょっとくらい嫉妬してくれるかと思った…。」
「………。」
そういえばそんなことも…、言ったっけ…?
「玲奈ちゃん、」
あたしは身体を離して、玲奈ちゃんの顔を再度見つめる。
「ごめん、あたしも隠してた。本当のとこ、むちゃくちゃ妬いた。」
「ほんと…?」
「あんなこと、あたし以外としていいと思ってんの?しかもあんな顔…、全国ネットだよ?」
「…ほんとにがっつり見たんだね…」
「おしおき。」
「え、ちょっ、…んっ」
有無を言わさずその唇にキスをした。
そうそう、そうやって。
気持ち良さそうに目を閉じる顔、色っぽくてダメなんだよね。
欲望のままに唇を舌でこじ開けて、そのまま口内に侵入する。
「んんっ…」
苦しそうな声してるくせに、あたしの舌に自分のを必死に絡めてくるとことか。
反則レッドカード速退場。
「ん、んっ…!」
トントンと胸を叩かれて離してほしそうだったから、仕方なくて唇を離すと、さっきやりもずっとずっと顔を赤らめた玲奈ちゃん。
「もう…だめ。」
そのままあたしの腕の中にすっぽり収まる。
「こんなドキドキすんの、珠理奈だけだし。」
「そういえば、あたしとその俳優さん、間接キスしちゃったね?」
「あっ…!」
ホッと一息つく玲奈ちゃんに意地悪な声をかければ、再び焦り出す玲奈ちゃん。
ほんと、忙しいなーこの人は。
「も、もうっ!おしおき!」
玲奈ちゃんはそう言って、あたしの首に巻きつきながら、少し背伸びをしてあたしの唇にキスをする。
結果から言いますと、あたしと玲奈ちゃんは相変わらずのバカップルだったみたいです。
耳の遠くで、ドラマのエンディングらしき曲が聞こえてきた。
ドラマは終わっちゃうけど、あたしと玲奈ちゃんの夜はこれから始まりますので、そこんとこよろしく。
~おわり~
あんまりなかったけれど、リアルパロのじゅりれな!
はい、土下座m(_ _)m
玲奈ちゃんのドラマ出演が決まって、その中のキスシーンに嫉妬する珠理奈ったのを書きたかったのだけれど、もう終着点が見つからずうろうろ彷徨い、そして最後は無理やりしめるっていう。
はい、そーですね、一掃セールなので寛大に受け止めてください。笑
そして、きょうこのあと夜の街に繰り出すので(言い方w)、今日の更新はこれまでかもです!
夜ご飯いくだけです!笑
一掃セールは明日も続く、はず!
そして、中編ね!中編!
ちゅうへんちゅうへんちゅうへん!
じゅりれなと、さやななと、じゅりまな逆転王子様、あと君夏。
ぜんぶ書きたいんです!
構成はできてるんです!
いつも言ってるけど!笑
誰かわたしに小説を書く時間と、集中力をください!!
では!
さきおかでしたー笑