マンション管理士|村上智史の「士魂商才」 

無関心な居住者が多いマンション管理組合に潜む様々な「リスク」を解消し、豊かなマンションライフを実現するための「見直し術」をマンション管理士:村上智史(株式会社マンション管理見直し本舗 代表)がご紹介します。

マンションの給水管の修繕問題が厄介なワケ

             f:id:youdonknowwhatyoulove:20141129153548g:plain

3月1日付の日経新聞で「マンション給排水管、寿命40年 「更新」には1戸数百万円」と題した記事が掲載されていました。

 

www.nikkei.com

本記事の要約は以下のとおりです。

======

◾️ 築年数が40年超など高経年のマンションが増えるなか、給排水管の更新工事が急務になっている。

◾️ 高経年のマンションでは金属製の給排水管が多く、年月の経過とともに腐食するため漏水トラブルが発生しやすい。

◾️給排水管の工事は「更生工事」と「更新工事」がある。更生工事は内部のさびを取り十数年ほど管を延命させる。一方、更新工事はさびない樹脂製の給排水管に取り換える。

◾️ 樹脂製にすれば追加の大工事は不要になる。規模等で費用は異なるが、更新工事の場合、床をはがすなど大規模になるため1戸当たり100万〜300万円になる。

◾️ 築38年の分譲マンションでは、金属製の給排水管の老朽化が進んでいるが、工事費について合意できず、3年ほど膠着状態が続いている。更生工事は現在の積立金の範囲内で賄えるが、更新工事の費用は戸あたり200万円かかるため、修繕積立金を月4万円値上げする必要があり、どちらの工事を実施するかで揉めている。

◾️ また、給排水管は専有部分と共用部分にまたがることから、更新工事をどこまで手掛け、誰が費用を負担するかが論点になる。管理組合が専有部分も含めて更新工事を担うと建物全体の価値を高めやすいが、修繕積立金は原則として共用部分の修繕費用に使われる。

◾️ 一般にマンションの長期修繕計画には給排水管の修繕工事が盛り込まれるが、専有部分までは対象にしていない。専有部分を含めて管理組合が手掛けるには、長期修繕計画の修正や管理規約の改定が必要になるため、総会の特別決議になり、組合員総数と議決権総数でともに4分の3以上の賛成を得なくてはならない。
◾️ 給排水管は外壁などと違い目に付きにくく、設備の劣化を認識しにくいため、住民の合意を得るには、工事の必要性やメリットを理解してもらうことがカギになる。
◾️ 築51年で688戸のマンションでは、給排水管の更新工事が必要と考えた住民が準備委員会を立ち上げ、5年をかけて準備し、2024年3月に更新工事を終えた。

◾️ 工事対象に専有部分も含めたほか、最新のユニットバスに改装する費用の大部分を管理組合が協力金として支給することにした。委員会は住民説明会を複数回開催。工事の流れや意図などをまとめた広報紙やDVDを配布したほか、説明会に出られなかった人には個別訪問をするなどで合意形成に結びつけた。また、工事費総額(18億円)のうち、約3.5億円を国の補助金で賄った。
◾️ 工事中は住民が過ごしやすいよう配慮。1週間ほど水回りの設備が使えないため、組合が近隣の温泉施設を割引価格で使えるようにしたり、敷地内の広場に仮設のトイレやシャワー室、洗濯機を設置したりしたという。
◾️ 築45年の神奈川県の共同住宅では、2015年に給排水管の全面的な更新工事を終えた。2021年には給湯器の省エネ化や窓の断熱化などを完了したため、若い世代の入居も増えつつある。物件の売却価格は工事前に比べ200万〜300万円ほど上昇したという。

◾️ 専門家によると「金属製の給排水管の寿命は40年。これを超えると抜本的な対策が必要になる」と指摘。築40年以上のマンションは、約20年後の43年には約464万戸に増加する見通しだ。

◾️ 一方、管理組合の動きは鈍い。マンション総合調査で「老朽化対策の議論をしていない」「議論したが方向性が出ていない」と答えた管理組合は約79%に上る。

◾️給排水管の更新工事には多くの資金が必要になる。修繕積立金だけで賄えない場合に活用できるのが金融機関の融資で、その代表例が、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」だ。

◾️保証料は必要だが、法人格がなくても借りられるなど、管理組合が使いやすい。2025年3月時点の融資金利は返済期間10年以内で年0.97%だ。また、同機構の「マンションすまい・る債」を購入・運用中であればさらに年0.2%金利が引き下げられる。

◾️また、自治体によっては、住宅金融支援機構の融資の金利に対する助成金制度を設けている。東京都は最大1%の利子分を支給する。こうした制度を組み合わせれば、実質無利子で資金を借りられる。

======

給水管の材質は、時代とともに変化してきました。

昭和時代から現在までの材質の変遷と、それぞれの特徴は以下のとおりです。

<亜鉛メッキ鋼管>

安価で強度があるものの、錆びやすく赤水が出る

 

<硬質塩化ビニルライニング鋼管>

配管内部は塩化ビニルでコーティングされているため耐食性能があるが、継ぎ手の接合部やバルブが錆びるという欠点あり

 

<ステンレス鋼管>

サビに強い素材で、劣化の進行を遅らせることができる。

 

<ポリエチレン管>

耐久性、耐食性、耐震性に優れている。

 

ステンレス鋼管、あるいはポリエチレン、ボリブデン等のいわゆる樹脂管は、40年以上の耐用年数と言われています。

ただ、築20年超のマンションの多くで共用部に使用されている「塩化ビニルライニング鋼管」については、水に接触しやすい継ぎ手部分からどうしても錆び始めるため、築40年目までには更新することが望ましいとされています。

 

更新費用は、共用部だけでも戸あたり40〜50万円かかるとされており、マンション全体では数千万円に及ぶ金額になるため、大規模修繕工事とは別に資金を積み立てておく必要があります。

 

この継ぎ手部分の発錆を抑制する有効な方法として、「電気防食工事」があります。

 

顧問先のうち築20年超のマンション電気防食装置の設置を提案しており、すでに3件で導入しています。(電気防食のしくみやコスト等の詳細は、下の記事参照)

<参考記事>

aplug.ykkap.co.jp

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

一方、専有部の給水管は、特に2000年以降竣工のマンションでは、耐食性の高い樹脂管を使用しているのが一般的なので、それほど劣化を心配する必要はないかと思います。

 

ただし、90年代以前竣工のマンションでは、給湯管に銅管を使用しているケースが少なからずあり、これは早めの修繕対策の検討が必要です。

 

銅管は、殺菌効果、耐熱効果、電導効率等に優れている一方、給湯用として使用すると温度変化が激しく、しかも流れては止まるの可動域が頻繁なため、流体の管内衝突が激しいストレスの多い環境にあります。

 

また、残留塩素やバイオフイルム (細菌生物膜)の影響も絶えず受けています。

 

その結果、発生電流や静電気などの電気的刺激と相まってピンホールが発生し、そこから漏水が起きるわけです。

 

顧問先のマンションは2000年の竣工ながら、まさにこのケースで、2023年の冬に住戸間で漏水事故が発生したことから他の複数の住戸も調査した結果、いずれもかなり経年劣化が進んでおり、配管内のピンホールからの漏水リスクが非常に高まっているとの指摘を受けました(下の記事参照)

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

そのため、給湯管と追い焚き管の交換工事を行う業者を紹介し、主に天井裏に樹脂管を設置する方法で戸あたり100万円前後で実施する提案をしてもらったところ、現在全体の2割程度の居住者が更新工事を発注する状況になっています。

 

マンションの給水管の修繕が厄介なのは、概ね以下の4つの事情があるからです。

1)マンションの竣工時期によって配管の材質と耐久性が異なる

2)共用部と専有部で配管の材質が異なるケースが多い

3)配管更新が必要な時期に資金事情が逼迫している組合や区分所有者が多い

4)専有部内の修繕は区分所有者によって対応がまちまちになりやすい

 

共用部と専有部の配管を一体で更新しようとしても、修繕積立金の用途が共用部が原則であるため規約の改定が必要であったり、すでに更新済みの住戸が含まれる場合にはコスト負担の衡平性を考慮する必要が生じたりします。

 

そのため、遅くとも築30年目を目処に、管理組合で今後の修繕スケジュールや資金計画について真剣に検討し始めたよいと思います。

 

             f:id:youdonknowwhatyoulove:20180907095250g:plain

 

※ ブログ認知度向上にご協力いただければ嬉しいです (^▽^)/

  ↓       ↓

にほんブログ村 住まいブログ マンション管理へ