いよいよ明日から順位決定戦だ。
5人は乙女の花園ミーティングルームに居る。
「決定戦て結局どうするの?」
歩が当然の質問を投げかける。
今日この日まで、前にマリアが言っていた種目はくじびきで決める、と言う事以外何も聞かされていないのだから。
ガタリと椅子を下げ、マリアが立ち上がった。
そして教師よろしくホワイトボードの前に立つと、無言でそのホワイトボードに字を書きはじめる。
順位決定戦超会議。
ホワイトボードにはそう書かれた。
「じゃ、そう言う事で会議を始めるわ。なぜならさっき私は教官からトーナメントにするかリーグ戦にするかおまえらで決めろ。その後にくじびきしなさい。って言われたから。なによ、この訓練校!?そんなことまで私たちに決めさせるの!適当すぎも甚だしいわ!」
と、激怒するマリアは怪我も回復しとても元気そうだ。
「落ち着けマリア。この訓練校は入学者がいない年の方が多いくらいだからな。5人もいるとどうしていいか教官たちもわからないのだろう。なにせ数が少ないうえに奇数だしな」
と、ヴィクトル。ヴィクトルも元気そうで何よりだ。
「トーナメントでええんちゃう?」
桜子がそう言う。
「トーナメントね。誰か一人がシードであとの4人が勝ちあがってくるタイプになるわね」
そう言いマリアはホワイトボードに、シード選手はいきなり決勝戦から出場、他の4人が勝ちあがってくるトーナメント標を書く。
「それか、こうかしら・・・」
シード選手を2回戦から登場させるために1回戦の勝ち上がり組とシード選手が一度対決し、その勝者が反対ブロック1回戦の勝者と決勝を行うトーナメント標。
この場合、シードと反対ブロックの勝者は2回勝てば優勝、シードと戦う選手のみ3回勝たなければいけないことになる。
「どっちかって言えば、後の方が平等だね」
格闘は簡単にいえば傷つけあいだ。ならトーナメント戦の場合試合が少ない方が有利になる。
「5人だとどうしてもトーナメントの場合、有利不利でちゃうわね。なんなら私がここでもいいけど」
と、マリアが後のトーナメント案の3回戦って優勝の場所に名前を書いた。
「あとくされないトーナメントあんで」
そのトーナメント標を見ながら桜子が新たな案をホワイトボードに書いた。
トーナメントのやぐらは2つ。その勝ち上がり戦。
「これや」
「なによこれ・・・4人しか出れないじゃない」
マリアが怪訝な顔。もちろん歩もヴィクトルもセシリアもだ。
「そや、シンプルイズベスト。2回勝ったやつが優勝や」
「だーかーらー。それじゃ4人しか出れないじゃない!」
マリアが語尾を強める。
「だからな、マリアはもう1位ってことにして、2位3位を決めるトーナメントや。1回勝ったやつは2位か3位決定する。ほら、あとくされない綺麗なトーナメントやろ」
その言葉を聞いたマリアが意識を失っている。
「おお」
歩、ヴィクトル、セシリアは感心した。確かに何の不公平も無駄もない綺麗なトーナメントだ。
「いいやろ?マリアの今までの実績見れば1位言うかて誰もそこに不満はあらへん。認めざるおえない」
「あとくされ大アリよ!この、どぐされやろう!なんで私ここまできて仲間外れにされなくちゃいけないのよ!?」
「しゃーないやん。人数あわへんのやから。女王は優雅に私らの戦いを見ていればええ。お得やろ?」
「いやよ!絶対イヤッ!だったらヴィヴィの事、優勝させなさいな!今の女王はヴィヴィよ!私、負けたんだから」
マリアがビシッと現女王のヴィクトルを指差す。
「女王権限発動だ。断る」
ヴィクトルは冷静に権力を行使する。
「元女王・・・新女王の命令や。ここは従いぃ」
「絶対イヤッ!お願いだから仲間に入れてよっ!」
そう言って本気で泣きそうな顔をしながらマリアは、桜子の書いたトーナメント標をホワイトボードから消去した。
「しゃーないな。ほんま元女王はわがままや。ほなら総当りのリーグ戦にしよか。これはこれでしんどいし、戦う順番による有利不利がどうしても出てしまうけどな」
それは格闘の素人の歩にもセシリアにも理解できる。
例えば歩の最初の相手がマリアだとしたら、勝つにしろ負けるにしろ、相当なダメージを追うだろう。それは絶対に次からの試合に大きく響く。いや、もしかしたら次の試合に出れない、そんな事も起こりうる。
その逆の考えもできる。もしマリア、ヴィクトル、桜子が、リーグ序盤戦で消耗戦をした場合、その後にその3人と戦う歩やセシリアにも大きなチャンスがあるかもしれない。
「そうしましょう!なんだかんだ言ってもそれが1番平等よ。それに私はやっぱりみんなと試合したいわ」
よほど仲間外れにされたくないのだろう、マリアが叫ぶ。
「かまわない」
と、ヴィクトル。
「うん。私もそれでいいよ」
と、歩。
「私も。私はみんなに胸を借りる立場だから。へへ」
と、セシリア。
「じゃ、リーグに決定と。じゃ次は戦う順番決めて、競技決めしよか」
いつの間にか桜子が場を仕切っていた。


くじにより1週間おきに開催される試合の順番が決まった。
最初に誰が何週目に休むかのくじを引き、その後に自分が出る週の何試合目かのくじを引く。


1週目1試合目・新道歩VSセシリア・バッケンハイム。2試合目・マリア・シノノメVSヴィクトル・バイルシュタイン。桜子、休み。
2週目1試合目・バース・桜子VS新道歩。2試合目・ヴィクトル・バイルシュタインVSセシリア・バッケンハイム。マリア、休み。
3週目1試合目・マリア・シノノメVSバース・桜子。2試合目・ヴィクトル・バイルシュタインVS新道歩。セシリア、休み。
4週目1試合目・ヴィクトル・バイルシュタインVSバース・桜子。2試合目・マリア・シノノメVSセシリア・バッケンハイム。歩、休み。
5週目1試合目・バース・桜子VSセシリア・バッケンハイム。2試合目・マリア・シノノメVS新道歩。ヴィクトル、休み。


「うーん。いいじゃない、いいじゃなーい。綺麗な並びだわ。やっぱこうでなくちゃ」
ホワイトボードに書かれた試合順をみてマリアが満足気に頷いている。
「うむ。私とおまえが1週目であたるというのも運命めいててなかなかシビレルな」
「ええ。互いに怪我も完治して万全の状態。今度は前みたいにいかないわよ」
「ああ。次も全力でやるさ」
マリアとヴィクトルは拳をあわせる。
「あかーん、あかーん、これはあかーん!1週目に試合無いてなんやねん!これはあかーん」
桜子は頭を抱え嘆いている。
「言うのは簡単だけど、こうやって見ると大変そうだねぇ。歩、どう思う?」
セシリアがホワイトボードから歩に視線を移す。
「だねぇ。私はもう少し試合すくなくてもいいかな~、なんて。たはは」
歩は苦笑いで答える。
セシリアの言うとおり、これはさすがに厳しい。
5週間で4試合。尋常ではないハイペースだ。
その恐ろしさに戦慄さえ覚える。
「だよね。私も同じ」
そんな歩の心情を察してかセシリアは歩の手を握り微笑んだ。
桜子がムクッと立ちあがった。
「嘆いててももう決まったもんはしゃーないな・・・時間があらへん。次は競技決め・・・」
そこまで言うと桜子はしばし考え「んがー」と本棚をあさりだし、武闘衛星のパンフレットを見だした。
「あかん・・・これあかんで・・・このリーグ戦成立せえへんで」
「どういうことよ?1週目に試合ないからって適当な事言ってあやふやにしようとしてるんじゃないでしょうね?」
マリアが腕を組み、疑いの眼差しを桜子に向ける。
せっかく決まった理想のリーグ戦を消されまいと必死だ。
「んなわけあるか!ここ見てみい、ここや」
桜子はテーブルにパンフレットを広げ、指をさした。
そこには武闘衛星の入学式の日にちが書いてある。
10月20日。
「今日、何日や?」
マリアとヴィクトルが固まる。
口をパクパクさせる二人に代わり、セシリアが答えた。
「・・・えと、10月1日。5週間もかけてリーグ戦してたら、私たち誰も衛星に行けないね・・・」
「なんなのよ、なんなのよ、この学校!なんでそんな時期まで決定戦やらないのよー!」
本日2度目のマリアの叫びがミーティングルームに響いた。


つづく。