ここ数年、我が国ではエコへの意識の高まりからか、3Rを明確に分ける事が多くなった。
Reduce(リデュース):必要以上の消費・生産を抑える、減らす。
Reuse(リユース):一度使用された製品もしくは、その一部を再利用する。
Recycle(リサイクル):使用された製品を再資源化し、再循環させる。
これら3Rの他にも
修理を意味するRepair、改良を意味するReform等も加え、4R・5Rとも言うらしい。

幼少期は、3Rなる言葉がなかった為か
なんでもかんでも「リサイクル」という一つの言葉に纏められていた。
きっとビックリマン世代には、同意いただけるだろうことだろう。

数年前まで地元の倉庫会社に勤めており、主にコンテナ内での作業を行っていた。
冬は、0度に届く程に寒く
また、夏になれば50度に迫る程の暑さの中での作業を強いられた。
1日6ℓの水分を採ったとて、日に日に痩せていく自分を実感できる。
そんな苛酷な現場であった。
それでも続けていけたのは、楽しい(個性的な)仲間がいたからかも知れない。

天空Tシャツ先輩は、職場のリーダー格ではあるが
能力的には物足りなく、一見すると頼りない人物に見えるが……まさにその通りの男であった。
私が「消しゴム落とし」の動画を上げ、ランキング入りした時に
天空(技名)のTシャツ化のアイデアを出し、その見返りとして
25%ものアイデア料を徴収しようとした、強欲なる者でもある。

長谷川君はバトル鉛筆世代の代表とも言える人物で
子供の頃は新作の鉛筆が出ると、登校前に必ず近くのデパートに買いに行く程であり
数年の後、彼は独りでバトル鉛筆トーナメントを開く程の豪の者へと成長を遂げた。
私がバトル鉛筆に興味を示すと「僕はもう、独りでやるのを卒業しましたから。」
との理由で、全ての鉛筆(40本以上)を私にくれるなど、優しい一面も持ち合わせていた。

そして、エコへの意識が人一倍……。
いや、10倍は過ぎるであろう、香川君である。

上記の3名+私を含め、計8名で日毎に分担して作業を行う。
毎日違う相手と、二人ひと組のペアを組む。
長時間二人だけでいるのだから、このシステムはリフレッシュするには丁度良いと思っていた。

香川君は私より2つほど年下で、少し”なよっとしている”そんな風貌の男である。
身長は男の中で一等低く、心許ない体躯は凡そ成長期に身体の成長を怠ったような
そんな、少し”なよっとしている”感じである。

人体の60~70%は水分でできている事は余りにも有名な話である。
しかしこの香川君に関して言えば、ソレは当てはまらない。
香川君の2/3を占めるのは、オタク成分であり
残りの1/3が水分やそれ以外の人と同様の要素でできていると思われる。

彼を今時の言葉で表するなら、「萌え食系男子」の代表格と言える。
萌え食系男子(モエショクケイダンシ)
萌え食系男子とは、読んで字の如く”萌え”を主食とする成人男性の事を指す。
大学教授、新聞記者、キャリア官僚など有識者から成る専門チームの発表によると
萌え食系男子の存在が確認されたのは、2010年前期からだとされ
現在では新たな食”ジャパニーズフードの一種”として世界中に認知される程となった。

しかし萌え食に対して、未だに頑なに拒絶反応を示す者も多く
何人かのメンバーは、彼を汚物にでも触れるように、冷たく接する者もいた。

そんな中、私は彼と次第に打ち解けていった。
私自身が萌えに少なからず興味があった事は勿論であるが
同じ陸上部出身である事、そして何より
セーラームーンRのED曲である「乙女のポリシー」を
携帯に入れて持ち運んでいると打ち明けてくれた時、絶対的な信頼感を勝ち得たと確信した。

夏のある日
香川君とペアを組んでいる時に、ある事に気付いた。
風邪でもないのに、頻繁に鼻をかむものだから理由を聞いてみると
どうやら鼻の粘膜が弱く、一年を通して鼻水が出やすい体質との事だった。

「ちょっとゴメン。」
彼はそう言うと、ズボンのポケットから丸まったティッシュを取り出し
一つ鼻をかむと再び同じポケットにかんだティッシュをしまった。
今でも市民ランナーを続ける彼にとって、コレは少なからずハンデになるんじゃないかな?
と同情にも似た感情が少なからず芽生えていた。

数日たったある日
数人のメンバーが盛り上がっているので話を聞いてみると
話の内容はどうも、香川君の事らしい。

「アイツいつも同じ鼻紙で鼻かんどれんぞ!」
*かんでいるんだぞ!の意味。
「きたね~。」
などのやり取りが聞こえて取れた。
これはイジメに繋がると感じ、私は思ってもいない嘘をいつの間にか吐いていた。
「彼のポケットには、洗浄機能が付いているんですよ。」

瞬間の間も置かずに、場は笑いに包まれた。
「santa君の発想は、いつも面白いな!」
笑い話として、本人が知らない所でこの話は完結した。

翌週
香川君は今日も饒舌に、うみねこのなく頃にの話をしてくれた。
流行っているのは知っているが、タイトルしか知らなかった私は
うん、うん。
と適当に相槌だけ打ちながら、その時を待った。
本人には悪いと思いながらも、その時を待った。

「ちょっとゴメン。」
彼はそう言うと、ズボンのポケットから丸まったティッシュを取り出し
一つ鼻をかむと再び同じポケットにかんだティッシュをしまった。
信じ難い出来事ではあったが、皆が言っていた事は本当だったのである。

彼は人よりエコへの意識が高過ぎるだけだと、自分で自分を納得させた。
しかし、一つの疑問が生じた。
彼のやっている事は、要以上の消費・生産を抑える、減らすReduce(リデュース)なのか
一度使用された製品もしくは、その一部を再利用するReuse(リユース)だったのか
今となっては知る由もない。