「最近、人工知能に小説を書かせているのですよ」
「どのような小説を書かせているのですか?」
「美味しいアンパンを食べて感激したのでアンパンを讃える小説を書いてくれと人工知能に指示したのです。すると、人工知能はたちまち私が読み切れない程の膨大な量の文章を提示してきたのです」
「面白い作品になりましたか?」
「私が期待していた程の面白い作品にはなりませんでした。文章に大きな矛盾があるわけではありませんし、私の指示にも従っているのですが、どうも平坦で焦点が合っていないような印象を受けるのですよ。結局のところ、人工知能はアンパンを食べた経験がありませんから心理描写に実感が籠らなかったのかもしれません」
「読者の琴線に触れる勘は人間の作家による文章の方がまだ優れているのですかね?」
「たまに琴線に触れそうな描写はあるのですが、読者の心を掴み続けようとする執念がありませんね。私としてはアンパンの美味しさをもっと執拗に讃えてもらいたかったのですが、表現が淡白なので文章自体は長くても物足りないという印象を受けましたよ。ひょっとすると、欲望を内包していない人工知能は平坦で焦点が合わない小説しか生み出せないのかもしれませんね」