『ディア・ヒーロー・ミー ~あの日僕が別れた僕へ~』ACT.8/前半
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(ACT.8/前半)
・舞台、第二埠頭一番倉庫。
・泉水、息を切らせて走り込んでくる。
泉水
…よし、圭太はまだ来てないみたいね…。(息を整える)あー…だけどどうやってフォローしたらいいんだろ? 誘拐の方は何とかなるとしても、死ぬってのはやっぱりやりすぎかしら? 『本当に気のせいだったみたい』って言ったら怒るよね…多分。うー、いいアドリブが思いつかないー!
悟
心配しなくても大丈夫ですよ。
泉水
えっ!?
・悟、登場。
泉水
ど…どうしてここにいるのよ? 私先に出て、しかも走ってきたのに…。
悟
俺、原付持ってますから。
泉水
ああなるほどじゃなくって! 『大丈夫』ってどういう事よ?
悟
一つ目は、坂本さんはここには来ないって事。
泉水
えっ!?
悟
二つ目は『死ぬ』って言ってしまった事。
泉水
ちょっ、悟君、それどういう…
悟
どうやって瀬戸さん達を引き離すのかが問題だったんですけど、携帯の着信拒否機能とペースメーカー用のジャミングで上手く行きましたよ。最後は強引でしたけどね。
泉水
ねえ、悟君…何を言ってるのか分からないんだけど…耕介君と亜衣ちゃんがどうしたの?
悟
やんごとなき秘密です。
泉水
冗談を言ってる場合じゃないでしょ! 圭太はここには来ないの? どうして!?
悟
本当、如月さんはあの人の事になると周りが見えなくなるんですね。
泉水
悟君!
悟
圭太圭太圭太圭太圭太圭太!! もう沢山だ!
泉水
!?
悟
坂本さんなら最初の予定通りの場所に行ってると思いますよ。
泉水
え? だって…
悟
演技ですよ、こうして二人きりになる為の。
泉水
冗談言ってる場合じゃないでしょ!
悟
俺、死ぬんですよ。
泉水
…はあ? いきなり何言うのよ。
悟
…同じ『死ぬ』なのにこうも違うんですね。
泉水
何を根拠にそれを信じろって言うのよ? 馬鹿馬鹿しい。
悟
そうなんだろ、死神。
泉水
死神?
ザリド
ヒャッハー! その通り!
・ザリド、登場。
泉水
ちょっと…
悟
如月さん、コレ、見えますか?
泉水
どれよ?
ザリド
オイオイ、いい加減言葉にゃ気をつけな?
悟
俺、死神憑きなんです。如月さんは俺が変な事言い出した様に見えるでしょうけど、確かに死神がここにいるんですよ。下品で、人の心を弄ぶのが好きな最低の死神がね。
ザリド
メタクソだねえ俺様。
泉水
いい加減にしてよ! 何言ってるのかわからない。協力してくれるって言ったのは嘘だったの!?
悟
ええ。
泉水
そんな…!
悟
一ヶ月前、こいつが俺の所に現れて、俺が今日死ぬ運命なんだと言ってきました。当然認めたくは無かった。だけど…こいつを見れば見る程、こいつの存在を否定出来なくなっていった。
泉水
本当…なの?
悟
公演が終わって思ったんです、俺。結局俺の人生何だったんだろうって。役者を始めたのだって俺には如月さんみたいに誇れるきっかけじゃないし自信も持てない。それでも俺は俺なりに必死だったんだ。憧れていた人に少しでも振り向いてもらえる様に。だけど! …その人は俺じゃなくて…全然違う人ばかりを見ていた!
泉水
まさか、その人って…
悟
どうしようもない俺の人生ですけど、最期の最後で生きてる意味を見つけました。おい、死神。
ザリド
待ってましたァ! お前やっぱ最高だワ。誰かを殺したいって願う奴はいるが、実際に形に出来る奴はそうそういないからなあ!
悟
黙って寄越せ。
ザリド
へいへ~い。
・ザリド、悟に鎌を渡す。(SE有り?)
泉水
ひっ!? な、何よその鎌! どこから出したのよ!
悟
如月さんにもそろそろ見えるんじゃないですか、コレ。運命が決まりかけているんですから。
ザリド
ど~も~、しっにがっみでぇ~す☆
泉水
ぇ…だ、誰!? だって…誰も…
悟
ほらね、見えた。こいつが死神ですよ。
ザリド
こういうの初めて? お嬢ちゃん?
泉水
嫌あああ! 何なのよ、分からない! 何がどうなってるのよ!
ザリド
いいねえ…ゾクゾクするぜ。…おおっと?
・ザリド、一旦退場する。
悟
如月さん…俺の最後の我儘です。一緒に死んで下さい。
・悟、泉水に歩み寄る。
泉水
やだ…やめてよ…こないで…。圭太…助けて…!
悟
愛してます。
圭太
泉水ーーーーーっ!
・物凄く汗だくの圭太、突入。
・物凄く荒い呼吸をしている。
・手にはお面。
泉水
圭太っ!
悟
馬鹿な!? 何でここが!?
圭太
お、お前…。何が、どうなって、んだよ? 泉水に、何しようと、した!
悟
く…くく、ははは…あっはっはっはっは! 何て人なんだあなたは! 分からない筈のここを見つけ出したのといい、登場の仕方といい、その台詞といい。まるでヒーローだ。
圭太
ふざけるな! お前、泉水を殺そうとしてただろ!?
悟
芝居ですよ。
圭太
何?
悟
あなたの気持ちを如月さんに向ける為の、壮大な芝居です。
圭太
生憎、俺には冗談に付き合ってる時間が無いんだよ。
悟
如月さんがあなたにお別れを言った後、瀬戸さんと牧野が入れ違いにやってきて、如月さんが誘拐されたとあなたに告げた。
圭太
えっ?
悟
そういえば如月さん、自分が死ぬって言ったみたいですね。如月さんにしては大胆なアドリブだと思いました。まあかなり効果有りだったみたいですけど。
圭太
何言ってんだよ…? 泉水?
泉水
本当なの、ごめんなさい…。でも!
悟
でも少し手違いがあったんですよ!
圭太
手違い?
悟
あなたですよ。
圭太
えっ?
悟
そもそもこんな計画は必要なかった。俺が精一杯生きた姿を如月さんの記憶に焼き付けて今日の死を迎える。そうすればきっと俺は如月さんの記憶に永久に残る…。本当にそれでいいと思ってたんです。
圭太
ん!?
悟
でも如月さんはずっとあなたを見ていたって分かってしまった。俺の事なんてこれっぽっちも見てくれない。だったらもう一緒に死ぬしかないと思ったんです。
圭太
ちょ、待てよ、今日死ぬってどういう意味だよ?
悟
ふん、言っても分からないと思いますけどね。おい! 隠れてないで出て来い!
・ザリド、悟の台詞中に静かに登場し、圭太の背後に。
ザリド
ばあああああああああ!
圭太
どわああああああああ!
悟
え?
圭太
な、な、な、何だよお前はあ!?
悟
どうして…見えるんですか?
圭太
はあ!?
タマ
これで役者が揃ったと言う訳か。
・タマ、登場。
(ACT.8/後半へ続く)