26
マックから通りに出ると、サーフボードを手に持ったペアルックの若い日本人カップルの姿を目にして、何も考えず、彼らの後に付いてホテルに入った。
もちろん、宿泊客ではないので、それなりの対処が必要だが、
泊まっているタムリンの隣のホテルで経験済みなので、何食わぬ顔で辺りを窺った。
どこまでも高い吹き抜け、紫外線対策をしているのだろう、
僅かに青い色味が入った巨大なガラス窓。
グアム一の繁華街タモンの通りの向こうはビーチが広がる。
目線を近づけると、リアルなのかオブジェなのか、
南国タッチの巨大な緑黄色の鉢植えが絶妙なスペースを取り、
宿泊客とスタップに邪魔にならないように配置され、
滝に見立てた清らかな流れのすぐ横では透明の2台のエレベーターが人形に見えるお客を乗せ、上下に忙しく稼働中である。
スタンドで給油してレンタカーショップに戻る際に小坂を下りながら免税店前に戻るまでの間の僅かな時間にちらりと目に入った海を思い出した。
通りすがりの人間とはいえ、今日はサーフィンをしないまでも、 泳がないまでも、ビーチに出てカンカンと輝く太陽光りを浴びても罰は当たらない。
ここはグアムでも有数のホテルで吹き抜けはニューヨークの摩天楼染みて、フロント従業員も宿泊客もブロードウェイを闊歩する俺様を疑いせず、チェックもなければ、怪しむ気配もない。
腹に爆弾を巻き付けたテロリストだろうが、ベースボールキャプに小ぶりのピストルを忍ばせていようが、知った事ではないのかもしれない。
海外での四つ星ホテルで盗難が絶えないとネットで目にするが、満更嘘ではないだろう。
オープンな場所であればあるほど、スリもいれば置き引きもいれば、何でもありとはいえ、平凡な日常から解放され、やっとの思いでバカンスに出掛け、心と体を解放したくなるのが人情だ。
その点、視界が遮られる坂の上でおとり作戦に出た米海軍は立派の一言に尽きる。
俺のような観光客崩れのアタックを未然に防ぐため、1時間を費やしたのだから。
摩天楼を抜け、青い海が見えるビーチ沿いのガラス窓の近くに寄った。
ここからビーチに繋がる出口がないだうかと、辺りを窺ってみても、さっぱり答えが見い出せなかった。
海パンも持たなければ、泳ぎたいわけでもないが、とにかく目の前のビーチに出たかった。
アイディが浮かんだ。
もしかしたら、今泊まっているホテルのように半ば半地下になった部屋のフロアからビーチに繋がっている箇所はないだろうか。
それまで、ただぼんやりと眺めていたホテルのフロアの一点、
一点を、集中して見渡してみると、通りから入って来た正面入り口とビーチが見通せる巨大なスクリーンの中間点の2台のエレベーターに隠れるように階段を発見した。
急ぎ足で階段まで進み、そのまま階下に降りてみると、
ここがグアム島の中心地、タモンのリゾートホテルである事実をすっかり忘れさせてしまかのように地下1階の通路を挟んスーパーマーケット、ABCもどきのコンビニ、レストラン、ファミレス、カフェ、アイリッシュ・バーなどの飲食店と観光客向けの施設が連なり、そこを過ぎると、歯科医、美容院、理髪店と東京のバーチャル染みた街の一角が並んでいたのである。
さらに奧に進むと、無機質な駐車場が連なっている。
ベンツ、BMW、アウディ、ポルシェ、フェラーリ、レクセス等々、東京都心さながらに、高級車がずらりと並ぶ景色に、
わざわざ、レンタカーオフィスに足を運ばなくとも、
ここで車が借りれるのではないかと錯覚させるほどだ。
とはいえ、ついさっきまで24時間にわたり俺の相棒を務めてくれたヤリスや西船橋のオフィスでお世話になったスイフトといった日本の大衆車の姿が拝めなかったのは残念至極である。
ハワイ・オアフ島のワイキキビーチのテスラのショールームを偶然に訪れ、ハンドルを触り、シートに座った数ヶ月後、
魚類研究所の谷柱さんに取材に伺った帰り、東京は青山のテスラのショールームに立ち寄った際に試乗予約しなかったのは今になって思えば惜しいことをした。
憧れでもなかったが、人生初の電気自動車に乗る絶好の機会だった。
TVやネットの情報だけで彼らのほんの表面しか知り得ないのだが、アルカイダ、タリバン、ISといった世界に名だたるテロリスト、反政府組織というか武装集団の面々がマシンガンやライフル片手にピックアップの荷台に乗り込み、
髭面で不適な笑みを浮かべている様がネットや映像を通して世界に強い影響力を及ぼしている。
彼らがトヨタを筆頭に日本車を御用達している様が奇異でしょうがなかった。
時折、フォードは目にしても、同じアメ車でもGM、ジープは見たこともない。
中国車、韓国車は論外で、それだけ、トヨタが、日本車が故障が少なく、丈夫でコストパフォーマンスに優れ、手に入りやすいいのか、3つの条件をすべてクリアしていると言う訳か。
今をときめくイーロン・マスク率いるテスラにピックアップのラインナップの有無を知らずとも、テスラとアルカイダ、タリバン、 ISとテスラのコラボレーション動画は如何なものだろ。
成り上りの荒くれ者の彼らがテスラに乗っていれば、
自動車は言うに及ばず、世界は確実に変わる。
彼らの財布となっている組織は謎に包まれているが、
日本の反社会勢力の親玉のような彼らも霞を食べて生きる仙人ではあるまいに、彼らなりの資金源が必要である。
暴力団風にいえば、彼らのメシの種であるシノギだが、
外見やイメージに囚われるのではなく、案外、利口であろう彼らはよく言われている麻薬、覚醒剤、武器、売春以外にも、美味しいビネジスに手を染めている事だろう。
いつしか、グアムのホテル地下の駐車場からテスラの本拠地の西海岸のカリフォルニアに心は飛んだ。
ここまで俺に声を掛ける者も、不審者として疑う者もいない。
駐車場の管理人のどこが涼しげなチャモロ人男性に会釈して通り過ぎ、さらに奧のトンネルのような人気のない長い通路を歩いていくと、薄明かりが見えた。
歩を進めるにつけ、明かりは鮮明になり、ついに海が見えた。
無意識に駆け足になり、ついにビーチに出た。
太陽は南に移動して、向かいのホテルが巨大な影となり、
辺り一面にパラソルの花が咲き乱れる中、俺はスニーカーのままタモンビーチをのんびり歩いた。
家族連れとカップルがチラホラいるだけで想ったより人は少ない。
ビーチから青い海に目を移せば、ウインドサーフィンに興じるカップルの先に小さなヨットが見えた。
サーファーの姿は少ないという事はタモン湾にはそれほど良い波は来ないのだろうし、グアムがサーファーに人気なのかどうかも知らなかった。
知らない事ばかりだった。
俺が生まれる以前の話だが、横井庄一さんの発見と帰国で、
グアム島にスッポットライトが当たり、その後の日本にグアム旅行の大ブームが舞い起こった。
俺にとってのグアムといえば、子供時代、友人の家での兵隊ごっこで知ることになった横井一さんの島であり、サイパン、テニアンの陥落のあと、大日本帝国に遺された太平洋に浮かぶ砦の一つの認識であった。
もはや戦後ではないと言われたのはいつの事だろう。
時系列がぐちゃぐちゃになってしまったが、
それくらい時が経つのは早いものだ。