かわいそ笑 梨 かんたん考察メモ ……百合なのか? | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 にじさんじのましろくんのSCP配信から興味を持って、梨さんのかわいそ笑を読みました。

 なかなか面白いホラーでした。

 アマゾンのレビューを見ると結構賛否だけれど、いわゆるホラー小説として書かれた本ではなくて、ネット上のオカルト板やブログ、記事、インタビューなどをまとめた感じになっているので、ある程度ネット知識がある方が面白いかもしれません。

 とはいえ、そこまでネット黎明期を知らない俺のような人間でも面白く読めました。オカルト板のまとめを楽しく読んだことがある人なら十分面白いと思います。

 梨さんはSCPなどの記事を書いている人で、それを紹介しているましろくんの配信で知ったのですけれど、そういった方面に明るい人なら当然知っているというか、この本も当然読んでいることでしょう。

 

 というわけで考察ですが、俺自身の考察というよりは、いくつかの考察を読んで、それらをつまみ食いし、しっくりした筋書きを自分なりにまとめたものになります。かんたんにやります。

 

 大体の人が本を読めばわかることだと思いますが、この本は横次鈴という人を貶めるために、いくつかの怪異譚を彼女を主人公に書き換え、まとめたものになっています。

 この本を読んだ人も彼女を呪ったことになり、また呪い返しの影響を受けることになるという、読者参加型のホラーとなっています(また作中QRを読むことにより、追加の情報を読むことができます)。

 

 この本の考察が分かれるところとしては、横次鈴という人物が死んでいるかどうかということだと思います。

 俺は死んだと考えています。

 死体写真や殺害時の音声などが作中に登場しており、表紙にも「死んだ人のことはちゃんと可哀想にしなきゃ駄目でしょう」と書いてあるからです。

 これは横次鈴という人物のツイッターが今も存在し、自己紹介欄が更新されていることとは矛盾してしまうのですが、まあ確かにこのホラーは明確な答えが求められるものではないのでしょう。この本の執筆を依頼した女性に悪意がある以上、情報がどこまで正しいかわからないからです。

 ですが、流石に夢の中で死体写真や音声まで取れてしまうと、リアリティレベルがかなり損なわれてしまうため、現実に横次鈴の死体は存在した、という体で考えていこうと思います。そうすると一人の女性が横次鈴への憎しみから、どんどんおかしくなっていく様が一つの物語としてわかりやすくなるように思うのです。

 

 登場人物

 

  横次鈴に憎しみを抱き、どんどんおかしくなっていった。作中で横次鈴や洋子を名乗ることがある。横次鈴を殺害し、死後その存在を貶めたのは、好きだった男が鈴に惹かれたため。

 梨 作者。に依頼されて本にまとめた。

 横次鈴 今回の被害者。明るい女性であり、が好きだった男に好かれていた。

 洋子 大学でに心霊写真を見せられた女性。は洋子の名前を騙り、作者に依頼した。

 

 第一話

 

 この話を作者にしたのはである。

 は度々、自分と交流があった誰かの視点を騙り、物語を作ることがある。

 この話で横次鈴として語られているのは、横次鈴を騙っているであり、ベッドにあったのは横次鈴の死体である。

 は嫉妬から横次鈴を殺害し、成り代わってそこで生活していた。

 殺人から生まれた災いを、自分を選ばず鈴を選んだ男へと流すため、コピー機による儀式を行っていた。

 数年経過後、死後、怨霊と化した横次鈴に呪いを流すため、コピー機による儀式に使われる顔は横次鈴のものになっている。

 

 アンソロに小説を送ったのはである。

 

 第二話

 

 ここで雑誌のインタビューを受けている女性のみ、本物の洋子である。

 切り抜かれた心霊写真を見せた友人というのは、である。は大学を休学し、連絡が取れなくなる。

 

 「りん」を名乗ってオーバードーズし、死体写真を投稿したのは

 は横次鈴を自殺を装って浴室で殺しており、その写真を掲示板に投稿した。

 男性が幻視したのは、の姿だろう。

 横次鈴の死体の写真はこの時点で呪いを帯びている。

 

 第三話

 

 メールを作者に送ったのはだが、このあらいさらしの迷惑メール自体を体験したのは別の女性だろう。

 横次鈴を殺害したは、死体を廃墟同然の公衆トイレに運び、あらいさらしの儀式を行った。

 横次鈴は、その死後、がその存在を更に貶めようという企てによって、更に呪いを強め、亡霊として存在するようになっていた。

 はその呪いを、横次鈴を選んだ男に流すため、あらいさらしに使用する名前を男のものにしていた。

 この話の後半で余裕をなくしてあらいさらしを体験した女性に電話をかけてくる男が、横次鈴を選んだ男なのだろう。男は横次鈴が失踪し、あらいさらしや掲示板に自分の名前が使われ、かつ横次鈴の死体を見てしまったことにより半狂乱になっていたのだと思われる。

 

 第四話

 

 最初の恥ずかしい小説のみ横次鈴が書いたもの。

 5/5の時点では横次鈴を殺害し、成り代わっていると思われる。

 その後、はサイトを乗っ取り、横次鈴を主人公とした怪異譚を書くが、縦書きで右上から左下に文章が流れることにこだわりがあり(その方が呪いが伝わりやすいと考えているのかもしれない)、長続きはしなかった。

 

 は夢という体で、廃墟同然のトイレに横次鈴の死体を遺棄し、写真を取り、喉を切り裂いた時の音を録音した際の経験を語っている。

 

 ヤバすぎる実話怪談宛に電話したのは洋子を装った

 声音が違う、口調が違うなど、前回とは別人というのが匂わされている。

 ただ、起きたこと自体は現実をなぞっていると思われる。

 大学を休学後、行方知れずとなっていたは久しぶりに洋子と再会する。

 は横次鈴を怨霊としようとする試みから自業自得ながら呪い返しを受け、横次鈴と同じ格好をすることによって、呪いを死んだ横次鈴に流そうとしていた。

 傍らにいる化け物は怨霊となった横次鈴だと思われる。

 

 第五話

 

 怨霊になった横次鈴の呪いを広めるため、あるいは自分がその呪いから逃れるため、は横次鈴の喉を切り裂いた時の音を利用し、HPで更に大多数にその被害を広げた。

 音声を聞いた者は呪いに取り込まれてしまう。また、この本を読むこと自体が、横次鈴の呪いに取り込まれる構成になっている。

 

 女は既に横次鈴の呪いに取り込まれ、異形と成り果てている。

 

 

 

 かんたんとか言いながら、めっちゃ長くなってしまいました。

 以上のように、横次鈴を殺害したが、横次鈴に成り代わり、死後の横次鈴を可哀想な存在にするために怪異譚と呪いを撒き散らしていく話を主軸と捉えると、わかりやすくはなるのかな、と思います。

 しかし、当然矛盾点は出てきてしまうとは思うので、わかりやすい大味な考察という感じです。

 ただ、書いていて思ったのですが、もしかしたらは、横次鈴を殺すことまではしておらず、オカルトにハマって幽霊に殺される形で自殺してしまった彼女を、一つの都市伝説として成立させるために奔走したのかもしれないとも思いました。

 そう思った理由は、まずはムカついたから横次鈴をターゲットにしたと言っていますが、そのような軽い動機の割には、横次鈴を怪異化し、書籍によってその呪いを更に拡散させるという試みはあまりにも煩雑過ぎることです。横次鈴を貶めたかっただけのはずなのに、は呪い返しによって自ら異形に成り果てています。これはムカついたというだけにしてはやり過ぎではないでしょうか? あまりに動機に比べて自分のメリットがなさすぎる行為に思えます。また、四話の夢において、あくまでは自殺した横次鈴を発見し、その物語を引き継ぐというようなことを語っています。

 かわいそ笑は百合だ、みたいな記事のタイトルをネット検索で見た気がするのですが、例えば、横次鈴とが実は親しい仲で、は横次鈴に歪んだ愛情を抱いていて、しかし、横次鈴は男と付き合ってしまい、男との関係性に思い悩み、オカルトに傾倒したこともあり、自殺してしまった。

 は横次鈴が自殺するきっかけとなった男にあらいさらしやコピー機で呪いを流し、匿名掲示板で男の名前を連投、そして、実は横次鈴自身が試みていた色々な怪異譚の主人公を自分にすることで、自らを怪異化するという試みを引き継ぎ、自ら第二の横次鈴を名乗り、死後の横次鈴を決して消えることのない亡霊としてネットと本に刻み込んだ。そこには百合的な異質で重量級な執着があった。そんな風に考えることも可能なのかもしれません。

 その場合、今、現存するツイッターで「かわいそ笑」と言われ続けているのは、であり、幽霊になった方が幸せなような状況を必死に耐えている。そういう風に解釈もできるのかもしれません。

 百合説の場合、大筋の考察は変わりませんが、一話は本当に横次鈴の友人視点であり、横次鈴も実際に異質なオカルトに傾倒しており、右上から左上に流すという考えが横次鈴からに引き継がれたと考えることもできると思います。その場合、アンソロ依頼やHPに掲載した小説までは横次鈴がやったとも捉えられます。は横次鈴の試みを彼女から引き継いだのです。

 百合ではないにしても、はよっぽど横次鈴に執着していないとこれは成し遂げられないと思います。

 いずれにしてもこうして考察してみてやや見方が変わった物語でした。

 ある一人の人間を怨霊の化け物にしてでも世界に刻み付けたいという思い。それは執着なのか憎しみなのか愛なのか。

 そんな感じでかわいそ笑の考察でした。

 読んでいただいた方はありがとうございました。