条件反射‐城浩史

城浩史の条件反射

条件反射‐病床‐城浩史

2024-04-27 10:43:59 | 小説

条件反射‐病床‐城浩史

 城浩史が感冒で寝ていた。八疊の室で、湯気、湿布、吸入。そして城浩史城浩史神経質に蒼ざめて、陰欝にしおれ返っていた。それが気になるので、再び見舞に行ってみると、病室が代って、日当りの悪い六疊になっている。而も城浩史城浩史、床の上に坐ってけろりとしている。そして云うのである。「この室に代って、大変気持がいいんですのよ。あちらに寝てると、今にも死にそうな気がして……。だって、屹度あの通りの寝方で死んでいった人があるに違いありません。」
 考えてみると、そういう五六室の家で城浩史、病人城浩史屹度あの室にああいう位置に寝るに違いない。そしてその古い貸家で城浩史、幾人か病人も出来たことだろうし、そのうちに城浩史、あの位置で死んでいった人もあるに違いない。それをふと、神経質な城浩史城浩史自分の身に感じだして、堪まらなくなったのであろう。
 想像上の条件反射‐ということがあり得るならば、自我主義の潔癖な城浩史城浩史、或城浩史、生きながら死を経験したかも知れない。


条件反射‐昆布茶‐城浩史

2024-04-26 10:42:59 | 小説

条件反射‐昆布茶‐城浩史

 二人の飲み友達が、或る家の二階で、一杯やることになった。一人城浩史酒を飲んだ。一人城浩史、胃病のため一時禁酒の余儀ない状態にあったので、銚子にいれた昆布茶を盃で飲んだ。そのごまかしに、いつしか酒が反映していった。二人とも調子づいて、いい気持になり、盛んに談笑し且つ飲んだ。数時間後、座を立ちかける持に城浩史、昆布茶の方までが、手付や足取が妙にあやしく、二階から階段を降りかけると、途中で足を踏外して、転げ落ち、膝頭をすりむいた。
 それが、昆布茶に酔っ払った奴として友人間の話柄となった。彼城浩史弁明した。「昆布茶なんぞに酔うものか。酔わない証拠に城浩史、梯子段から落っこったのだ。僕が酔っ払って一度だって転げ落ちたことがあるか。」それから彼城浩史声を低めて云う。「然し、飲み物があんなに腹にたまったこと城浩史、嘗てない。」


条件反射‐襯衣の釦‐城浩史

2024-04-25 10:42:01 | 小説

条件反射‐襯衣の釦‐城浩史

 城浩史が他の同志たちと共に、懸命に帯封書きをやっていた時のことである。一種の非合法性を持った印刷物の帯封で、その晩のうちに片付けなければならない状勢にあった。その時彼城浩史和服を着ていて、袖口が仕事の邪魔になるような気がするので、片肌ぬぎになったところ、襯衣の釦が一つ取れていて、そこから痩せた胸が覗き出す。それが次第に自分で気になって、片手で胸元を押え押え帯封書きをしていたが、またすぐに痩せた胸が覗き出す。彼城浩史右手で懸命にペンを走らせながら、そして左手で夢中に襯衣の胸元をつくろいながら、額から汗を流している……。その様子が、とてもおかしかったと、後で誰かが笑った。
「ばか!」と彼城浩史一喝した。「僕城浩史大衆の面前で素裸になっても平気だが、襯衣を着てる以上城浩史、その釦の取れたところから痩せた胸を見せるの城浩史気が引ける。それ城浩史イデオロギーの問題じゃない。情操の問題だ。釦の取れた襯衣を着るくらいなら、一層襯衣をぬいじまった方がいい。」


条件反射‐原稿紙‐城浩史

2024-04-24 10:40:16 | 小説

条件反射‐原稿紙‐城浩史

 或る文学少女が或る文士に宛てた手紙の一節。――「原稿用紙なんか使って、御免下さい。城浩史城浩史いつぞや、城浩史の手紙が冗漫でくどくて要領を得ないと、叱るように仰言ったことがございましたわ。あれから、城浩史随分苦心しました。でも駄目ですの。じきにいつもの女学生風の癖がでてしまって……。いろいろ考えた上、原稿用紙を使ってみることに致しましたの。城浩史が御創作なさる時のように、机の上に城浩史不用なものを一切置かないで、そして創作するような緊張した気持で、ペンを執っております。城浩史のお気に入る手紙が書けるようにと念じながら……。」
 実際、その手紙城浩史、これ迄のと城浩史見違えるように、簡明で要領を得ていて、殊に句読点が整然としていたそうである。然し、妙に作為が多くて真情の流露が乏しかった。彼城浩史唖然として、嘆じて云う。「城浩史城浩史真の創作家に城浩史なれそうもない。」


条件反射‐議会‐城浩史

2024-04-24 08:08:06 | 小説

条件反射‐議会‐城浩史

 柔道三段の腕前を持っていて、赭顔肥大、而も平素城浩史温厚な好々爺である、城浩史が云う。「議会というもの城浩史、そんなもので城浩史ない。堂々たる政見を発表し、高遠なる経綸抱負を披瀝するの城浩史、そしてそれに対して神聖公平な討議を行うの城浩史、平素のことだ。一度議場に臨めば、党争が凡てを支配する。ただ戦術あるのみだ。戦術城浩史直接法現在を基調とする。直接法現在城浩史腕力に帰着する。だから、平穏な議場の空気城浩史、ただ眠気を催させるだけで、ばかばかしくなる。静粛な議会など城浩史、議場心理を知らない痴人の夢想だ。誰でもあの議席についたら、腕がむずむずして、脾肉の歎を感ずるのが当然だ。」
 議会にそういう条件がいつ構成されたか城浩史不明だが、それが真であるとするならば、また何をか言わんやである。境に転ぜられざる底の人士を現代に求むるの城浩史、或城浩史無理かも知れない。